「え?うそ?」
あおいはあわてて手紙をランドセルの中に押し込んだ。
【うわさ】
「ねぇ。この学校のうわさ知ってる?」
噂好きの唯があおいに話しかけた。
朝日第二小学校。
北校舎のほとんど誰も使わない階段(みんなこの階段を「ゆうれい階段」と呼んでいる。誰がつけたのかは分からないけど、いつの間にかみんなそう呼んでいた)。その階段の一番上の階。一番端っこの教室。そこは現在、誰も使っていない物置みたいになっている。昔はちゃんとした教室だったのだろう。ボロボロではあるが、黒板もある。
その黒板には、子どもたちの中でちょっとしたうわさになっていることがある。
「その教室に一人で行き、赤色のチョークで文字を書くと、ちょうど一週間後の朝、机の中に手紙が届く」
しかし、あおいも、実際にやった人は聞いたことがない。だって、あの暗くて静かな教室に一人で行くなんて。ガイコツや人体模型が置いてある理科準備室に一人で入るより怖いことだった。
しかも、そんなうわさを信じる人は誰もいなかった。いたとしても、黒板に文字を書いているところを誰かに見られることになったら・・・クラス中の笑い者になってしまう。それだけは絶対にさけたい。お調子者の男子達が数人肝だめしと言って書きに行ったことがあったらしいけど、何も起きなかったって言っていた。
しかし、そのうわさは昔からあるらしい。
【何で勉強しなくちゃいけないの?】
「宿題やったの?夕飯までに終わらせるのよ!じゃないとまた寝るのが遅くなっちゃうわよ!」
お母さんの声が聞こえる。
「はいはい!」
あおいはランドセルに入っていた筆箱と今日の宿題を勉強机に広げてため息をついた。
宿題はお決まりの、漢字をノートに写すこと。そして算数のプリントだ。調子がいい時は30分くらいで終わってしまうが、疲れて帰ってきた時は1時間以上かかっても終わらない時がある。
「毎日毎日同じような宿題で嫌になるわ。漢字だってもう覚えたよ!何回書かせるんだっつーの。」
あおいは毎日毎日出される宿題に飽き飽きしていた。勉強はできる方だ。授業もしっかり受けている。塾も週2日通っている。だからあまり学校で怒られることはない。どちらかというと優等生だと自分でも思っている。
学校自体が嫌なわけでもない。友達とも会いたいし、今年から始まった部活動も頑張っている。
しかし、勉強ができるからといって、勉強が楽しいと思えなかった。わかりきったことを教える退屈な授業。時間ばかり取られる宿題。できれば授業も宿題もなくなって、体育や音楽、学活ばっかの学校があったらなと何度も思い描いた。
あおいはいつも心の中で繰り返している言葉がある。
「何で勉強しなきゃいけないんだろう?」
お母さんは「勉強しなきゃ学校の勉強についていけないでしょ」と言う。
お父さんは「将来幸せになるためだよ」と言う。
先生は「将来の選択肢を増やすためだ。やりたいことができた時に勉強していれば叶う夢の選択肢が増えるからね」と言っていた。
しかし、あおいは、そのどれを聞いても「よし!勉強しよう!」と思えなかった。
勉強が大事なことはわかっている。だから大人はみんな「勉強しろ!」と言うんだ。みんな宿題をしなくて怒られるよりは、嫌でも宿題をやる。我慢して勉強をする。
「もっと勉強が楽しくなったら私だってもっと人生ハッピーなのにな〜」あおいはため息を吐きながら、やり終えた宿題をランドセルにしまった。