「あーちゃん、宿題やってきた?」
前の席の唯が教室に入ってくるといきなりあおいに話しかけた。
「あーちゃん」
これは学校で唯だけが呼んでいるあおいのあだ名だ。
「もちろん。やらないとお母さんうるさいしね」
「算プリやってくるの忘れちゃった!答え写させて!お願い!」
「まぁ、いいけど、合ってるかわからないよ?」
「私が考えるより、あーちゃんの答えの方が正しいって。ありがと」
これがいつもの二人の会話だ。あおいは、ぼーっと窓の外を見た。
今日も6時間、退屈な勉強が始まると思うと、朝からため息が出る。
「あーちゃん!あーちゃん!そういえば、あのゆうれい階段のうわさ、本当らしいよ!二組のさっちゃんが、本当に手紙が来たって昨日言ってた!」
「すごいね〜。でも冗談でしょ。そんなことあるわけないじゃん。唯はすぐに何でも信じるんだから。将来結婚詐欺とか合わないようにね〜」
「ほんとだって!何か、質問をすると手紙が返ってくるらしいよ!」
「はいはい。あったとしても、それを知った他の誰かが面白半分で手紙を書いたんでしょ。私は信じませ〜ん」
「夢がないな〜。あーちゃんもやってみたら?」
(そんなうわさ本当に信じる人いたんだ。それなら、私が、うわさは本当じゃなかったって証明してあげるわ!)
「ねぇ唯。本当にあのうわさが本当だって信じてるの?」
「う〜ん。あーちゃんに言われると誰かのイタズラかもって思えるけど、もしかしたらって思う。それが本当だったら面白くない?」
「じゃあ、私が試してきてあげるよ!唯が将来結婚詐欺に合わないように嘘を見破ってあげる(笑)」
「ひど〜い。でも、私はあそこに一人で行く勇気ないし、あーちゃんがそう言うならやってよ!おもしろそ〜!」
いつもテンション高い唯だったが、いつも以上にニヤニヤしている。
「唯、なんでそんなにニヤニヤしてるの?なんかおかしいよ(笑)」
「そう?だって面白そうじゃん!やってよ!ねっ!」
こうして、あおいは、第二朝日小学校のうわさを試すことになった。
二人の計画はこうだ。
授業中に、あおいが、頭が痛いと先生に言い、保健室へ行きたいと言う。普段は保健係が連れていくことになっているが、「私が連れて行きます!」と唯が名乗り出て、あおいを連れていく。
授業中なら誰もゆうれい階段に近づくことはないし、唯以外には、このうわさを試すことがバレることはない。
あおいにとって一番の不安は、ゆうれい階段に行く怖さではなく、こんなうわさを信じていると他の人に笑われることだったから。
退屈な授業も抜け出せて一石二鳥だ。